給排水設備の耐震
(注)本文は、平成8年12月に作成され、雑誌『空衛』に掲載されたものです。
平成9年2月
須賀工業株式会社
技術研究所 米田千瑳夫
あと2ヵ月ほどで、未曾有の大災害となった阪神・淡路大震災から2年が経過しようとしています。
1978年の宮城県沖地震以後に改定された建築基準法施行令(いわゆる新耐震)に則して、現在の耐震設計法や耐震施工技術がありますが、それらに対して今回の震災でクローズアップされた問題点などが震災以降各方面において検討され、基準や指針が見直されて
います。
私達の職掌である建築設備に対しても、次の委員会
どんなに大きい地震に襲われようとも建物が倒壊しない限り、その施設内居住者に対して生命の不安や生活維持への脅威を与えることのないよう、設備もその機能を発揮できることが望まれることは言うまでもない。
設備の耐震目標として基本的なものについては、建設省や空気調和・衛生工学会からまもなく公表されるので、社会的責任を果たすためにもそれらに準じることは当然のこととなろう。
なお、対象物件の設備システムや各部の計画においてそれらを具現化させる上で意識しなければならないこととして、注目すべき三つのコンセプトが空気調和・衛生工学会の報告(参考資料2)に新た掲げられている事項の中に示されている。それは次のようなことである。
建物の重要度とそれに対応した耐震強度が特記仕様で指示され、個々にそれに適合するように強度設計を実施していくが、その範囲の中でもそれぞれの設備の機能保持、二次被害に対する安全性を選別しなければならないと考える。
そこには現実場面を見たときの耐震性能の程度と合理性が求められる。それは、要所のみ耐震基準に則っておいてその他は適当にする、といった曲解を許すものでは決してない。ある重要ランクに指定された給水設備に対して、想定以上の地震負荷が作用した場合においても、施設建物が到壊しない限り機能維持しなければならないラインの耐震性は他のラインとは別に、ときには指定以上のあるいは建築構造耐震強度と同レベルの強度を保持したものとなるように検討することも必要になろうということである。
地震被災後も施設内に居住しなければならない人々、防災センターで復旧活動を行う人たちにとって、給水・排水機能の停止猶予は一日もないのである。
ポータブル、パーソナルの装置類を除き、設備はシステム全体で機能するということを十分認識しなければならない。
設備各部において移動・転倒、損傷回避のため、個々の耐震技術が要になることは勿論であるが、その目的はシステム全体の機能保持にあり、そのためのサポートとして個々の耐震技術があるのである。従って、耐震のための施工精度も、システム全体との調和が計られ、全体としての耐震レベルがバランスされてこそ意味を持つことになる。
その道の学術分野において研究は進められているが、現時点ではまだ地震はその発生日時、場所、強さなど具体的なところが予測できない。他の天災と違って、ある日ある時突然、強大なエネルギを持ってやってくる。そして今回の震災のように一瞬にして生活の舞台を混乱に陥れる。日常、所定の地震対応を処置しておいても、突然の天災だけに100パーセント完璧といえる備えは無いといっても言い過ぎではないだろう。
そう考えた場合、高いレベルの耐震措置を施した施設内ライフラインに対しても、損傷を受けた場合の想定や危険率を低減するための計画などはごく自然の発想となる。例として以下のようなことが挙げられる。
耐震設計のベースは作用地震力の設定である。その主要件である建築設備の基準震度は、官庁施設に対しては参考資料1、一般に対しては同2にそれぞれ改定案が示されているが、いずれも平成8年9月末現在、まだ正式刊行に至っていないので、詳細をここには記述できない。以下、ここではそれらに共通する設計基本事項のアウトラインを示すこととする。
設計地震力の計算法は従来通り、次式による。
FH=kH・W ・・・(1)
FV=kV・W
=(1/2)kH・W ・・・(2)
ここに、
FH:設計用水平地震力[kgf]
FV:設計用鉛直地震力[kgf]
kH:設計用水平震度
kV:設計用鉛直震度
{=(1/2)kH}
W :機器などの重量[kgf]
設計用水平震度に関しては、設定法も高さが45m以下の建物においては局部震度法に一本化される方向にあり(3)式のように計算する。高さ45m以上または免震、制震構造の建物に関しては、構造体の地震応答解析に基ずいた床応答震度に、機器類の応答倍率、重要度係数を乗じて求めることになる。
kH=Z・kS ・・・(3)
ここに、
Z :地域係数(実用上1.0)
kS:設計用標準震度
設計用標準震度として示されている中で最も低い震度は1階及び地階の0.4であり、従来の局部震度法と変わらないが、適用区分と各々の震度が改定されているところ−−−例えば、屋上,塔屋,上層階の重要設備で2.0など−−−に注意を要する。
なお、空気調和・衛生工学会の報告(参考資料2)では、配管の支持・固定に対して上限を1.0と設定している。
これら標準震度をもとに(1)及び(2)式により設定された地震力が始点となって、各部の耐震強度計算から設計、部材選定、施工法選択へと耐震のための作業が続いて行く。
従って、震度設定に当っては1.に述べたことを認識しつつ適切に行わなければならない。
耐震施工に対する諸技術は紙面の制約もあるため、ここでは今回の震災被害で特に話題となった中から給排水設備に関する事項を、以下にいくつかとりあげて概要紹介する。
いずれも考えれば基本的とも言える事項ばかりである。ただ、それらを合理的かつ着実に実現し、その最大効果を図るにはやはり十分な施工管理が欠かせず、また設計者から配管技能者までを対象とした、耐震・防災の教育・啓蒙が必要となってくるであろう。
なお、補足として2次的被害の防止対処、日常のメンテナンス(腐食劣化防止など)、災害時の点検・補修の円滑化・容易さといったことも施工の延長線上にある重要な事柄である。
基礎は躯体と鉄筋などで緊結されることが原則である。


装置類の躯体への固定にはアンカーボルトを使用するのがほとんどであるが、ボルトの種類・形状や施工状態によって引抜き強度が大きく異なることに注意が必要である。
所定の耐力を保持させるためには、以下の点を認識して施工管理しなければならない。
今回の震災では水槽被害が目に付いたが、水槽自体は多くがメーカー生産のものであり、FRP協会などで独自の耐震基準を用意しているので本体のことはそちらに委ねる。


水槽まわりの配管は、可撓継手と配管第一固定点との位置関係が重要である。
槽側からの配管第1固定点を槽本体または槽設置部と同一構造体にとり、その後配管側に可撓継手を設置する。

地震時、周囲地盤と建物は固有周期が異なり、また今回の被災事例にも見られたように、場所によっては地盤の不等沈下が発生し、建物導入部の配管は可撓性・変位吸収能力が無ければただちに損傷を被る。
従って、導入部配管は水平方向、鉛直方向ともに変位を吸収できるものとしなければならない。
また、そこにトレンチを設ける場合は、トレンチ内配管の2方向に変位を吸収できるようにするか、変位吸収継手を設置する。
なお、トレンチは建築躯体から出した受け台で一方(建物側)を受け、他方は地盤内保持とし、トレンチ自体は建物外壁や受け部に固定しない。

建築設備の耐震という課題に対面した場合、各部の技術工夫が必要であり、それらが設備の耐震性能を支えるものではありますが、前述したように、個々の耐震技術の対応から総合的な防災感覚への意識の切り替えが求められています。そこでは1.で論じた“重点思考”、“総合機能”、“フェイルセイフ”といった基本理念をベースとしてコストパフォーマンスを図らなければなりません。
そしてそれらを具現化していくためには、一設計者、一施工業者の範囲から脱し、オーナーからメンテナンス業者までを包含した総合プロジェクトチームの中で、合意と納得を得るという努力も必要になるでしょう。
その上でようやく、より良い設備耐震が推進できるものと考えます。
建築設備の耐震は本質的に防災です。
各種検討・考案されたその技術は、設備本来の機能や設計、施工面の技術を直接的に向上させるものとは言い難いかもしれません。
しかし、それが給排水設備の本質的な技術の進展を抑止するものであるとは決して言えないでしょう。
むしろ、その思想を推進することにより、施工管理意識と施工品質の向上や、災害に対する備えと迅速な復旧体制整備など、設備に対する社会の期待に応える事ができ、さらには省資源、ライフサイクルコストなど、社会背景を考慮した場合には有為なものとなります。
私たち設備技術者も設備の一分野にとどまることなく、耐震の理念、防災の思想、危険予測など、視点を高く持ち、設備の総合コントラクタとしての使命、責任を健全に遂行できるようにこだわりを持ちたいと考えます。