(社)腐食防食協会主催「材料と環境2002」講習会発表原稿

建築設備の排水用配管における劣化事例について

平成14年7月8日
須賀工業株式会社
竹田喜一 中村勉


1.緒言

排水設備は一般に、下記に示すような特徴を有していることから、他の建築設備と比較して、腐食要因としての環境を想定することが難しい設備である。
排水の種類(汚水、雑排水等)や排水量などにより、その水質が大きく変化する。
各種洗浄剤や不特定の物質が混入しやすい。
排水の流れは、不定流で常時満水状態ではなく、空気・夾雑物を含む。
堆積物や微生物の作用により、厳しい腐食環境が形成される場合がある。1)
また、近年、圧送式排水設備やディスポーザーシステムのような技術が建築設備に採用されることで、排水設備の腐食環境は、流れの状態の変化により、さらに捉えにくくなってきている。
一方、使用される金属材料には、例えば亜鉛めっき鋼管、鋳鉄管、排水用塩化ビニルライニング鋼管、排水用タールエポキシ塗装鋼管などがあり、各材料に特有な腐食が発生している。
本発表においては、形態別の排水管の腐食事例を紹介する。

2.事例紹介

2-1.事例1

(1)試料概要

排水種類 : 厨房排水(立部)
管材料 : 亜鉛めっき鋼管(150A、肉厚5.0mm)
経年 : 14年(1978年竣工)
腐食速度 : 0.357mm/年

(2)腐食状況

外観上、管軸方向に割れが生じていた。酸洗い前の管内面には、全周にほぼ一様に、均一な厚みの堆積物が認められた(閉塞率:16%)。酸洗い後の観察では、管内面全体に減肉がみられると共に、電縫溶接部に割れが生じており、その断面形状はV字型であった。

(3)腐食要因の推察

電縫溶接鋼管特有の溝状腐食が発生した事例である。炭素鋼での溝状腐食は、淡水環境などでも発生しているが、特に排水中の塩化物イオン濃度が高い環境では、腐食速度は淡水環境と比べ加速され2)、本事例のような、割れが生じる劣化につながるものと思われる。
現在では、熱処理を行った耐溝状腐食電縫鋼管が用いられている。

2-2.事例2

(1)試料概要

排水種類 : 厨房排水(横引き部)
管材料 : 排水用タールエポキシ塗装鋼管(100A、肉厚4.5mm)
経年 : 15年(1980年竣工)
腐食速度 : 0.300mm/年

(2)腐食状況

酸洗い前の管内面では、接合部を起点に、塗膜の剥離、浮きなどが顕著にみられ、塗膜の劣化部に錆の発生が認められた。酸洗い後の観察では、塗膜の劣化部において著しい減肉がみられ、管端ねじ部の一部が消失していた。

(3)腐食要因の推察

管端接続部において、塗膜材の劣化が発生した事例である。排水管では、管洗浄時において機械的作用により、塗膜材が損傷する場合がある。また、従来のねじ込み式排水管継手は、給水管用の管端防食継手のような防食機能を有しておらず、管端鉄部が露出しやすい。これらのことより、本事例では塗膜材の劣化部や管端部の鉄部が露出し、堆積物の発生により酸素濃淡電池が形成され腐食が進行したと思われる。

2-3.事例3

(1)試料概要

排水種類 : 汚水(横引き部)
管材料 : 鋳鉄管(100A、肉厚4.5mm)
経年 : 31年(1963年竣工)
腐食速度 : 0.145mm/年

(2)腐食状況

酸洗い前の管内面では、管下部に堆積物が多く認められるが(閉塞率:26%)、酸洗い後の観察では、貫通孔などの顕著な劣化は管上部で発生していた。

(3)腐食要因の推察

管上部(気相部)に侵食が発生した事例である。本事例においては、管下部の堆積物などにより管内に嫌気性環境が生じ、硫酸塩還元菌が増殖した結果、硫化水素が発生し気相部の水分に吸収され、硫黄酸化細菌の働きで硫酸となり、乾燥・湿潤の繰返しでpHの低下を生じさせ、配管の侵食が進行したものと思われる。3)

2-4.事例4

(1)試料概要

排水種類 : 厨房排水(横引き部)
管材料 : 鋳鉄管(125A、肉厚4.5mm)
経年 : 10年(1991年竣工)
腐食速度 : 0.450mm/年

(2)腐食状況

酸洗い前の管内面では、全周に堆積物が認められるが、堆積量は管上部の方が多い。堆積物にはかなりの油脂分が含まれていた。酸洗い後の観察では、全面に侵食が認められるが、管下部の減肉が著しい。

(3)腐食要因の推察

管下部(液相部)の侵食が顕著な事例である。本事例においては、排水の水質がかなり腐食性のもの(低pHなど)であったと思われる。また、酸洗い後の侵食部が金属光沢を失い、黒色化していることから、黒鉛化腐食が進行していたと推察される。

2-5.事例5

(1)試料概要

排水種類 : 厨芥処理水(横引き部)
管材料 : ねじ込み式排水管継手(鋳鉄製、80A、肉厚約5.0mm)
経年 : 8年(1991年竣工)
腐食速度 : 約0.625mm/年

(2)腐食状況

酸洗い前の観察では、顕著な堆積物はみられないが、継手内面全体が薄い赤褐色の錆で覆われていた。また、継手接続の配管(塩化ビニルライニング鋼管)では、ライニング材が黒く変色していた。酸洗い後の観察では、鉄露出部全体(継手内面、管端部)に侵食が発生しており、局部的に貫通孔も認められた。

(3)腐食要因の推察

本事例における水質調査結果を表1に示す。検体1、2は同じ場所で時刻を変えて採水を実施したものであるが、検体2では、pHの値が4程度とかなり低くなっており、検体1より懸濁物質やCODの濃度が高い。これより、厨芥内容等によって、水質に変化が生じていたことが推察される。一般に炭素鋼の場合、低pHの酸性域では、腐食速度が大きくなるという報告がある。4)本事例においては、継手内面および管端鉄露出部が低pHの環境にさらされた結果、金属表面に保護皮膜が形成されず、腐食が加速されたものと推察される。このように、厨芥(生ごみ等)をスラリー状にして搬送する配管システムにおいては、厨芥物の内容やシステム(洗浄水設備の有無など)により、かなり腐食性の高い環境が生じると考えられる。

表1 水質調査結果
項目 単位 検体1 検体2
外観 - 透明 白濁
pH - 6.3 4.1
電気伝導率 mS/m 13.8 19.3
塩化物イオン mg/l 7.7 9.9
カルシウム硬度 mg/l 36.2 37.7
酸消費量(pH4.8) mg/l 35.3 0
懸濁物質 mg/l 12 567
COD mg/l 35 917

3.まとめ

排水設備では、堆積物による管の閉塞が問題となりやすく、一般に、腐食障害は発生し難いとされており、実際、鋳鉄管を採用した汚水系統などで、長期間にわたり使用に耐えている例もある。しかし、本発表で紹介した事例の通り、排水管においても、環境や材質などにより、様々な形態や要因で腐食が発生することがある。表2に、本発表で紹介した排水管における腐食形態および腐食要因を示す。

表2 排水管の腐食形態および腐食要因例
腐食形態または
腐食要因
種類
形態 黒鉛化腐食(鋳鉄管)
溝状腐食(電縫溶接鋼管)
管端腐食(ライニング鋼管)
コーティングの劣化(塗装鋼管)
要因 付着物状況の不均一による酸素濃淡電池形成による腐食
低pH環境形成下における腐食
硫酸塩還菌の発生による気相部の腐食
管洗浄時における機械的作用の影響による腐食

腐食による漏洩が発生すれば、排水という性質により、大きな損害をもたらす場合もあるので、今後、排水設備の腐食に関しても、系統的・実証的な研究が必要である。

(参考文献)

1) 中島博志,村田和也:「防錆管理」,VOL.42,No.3,p-101
2) 小若正倫著:「金属の腐食損傷と防食技術」,アグネ承風社(1983),p-71
3) 腐食防食協会編:「腐食・防食ハンドブック」,丸善(1983),p-826
4) 藤井哲雄:「工業用水」,No.479,p-26


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