設備工事における拡管工法とさや管ヘッダ工法の適用事例
はじめに
建築設備のプレハブ化、ユニット化に伴い、現場で採用される設備工事の配管工法にも省力化やリサイクル性、さらに省資源などの観点から、接合方法が簡便で軽量なステンレス鋼管や曲げ加工性などに自由度の高いフレキシブルなプラスチック管の採用が図られ、その利用範囲はますます広がっている。
ここでは、実際にこれらの配管材料を用いた施工事例に基づき、採用するうえでの利点と施工上での注意点などを紹介し、最後に今後さらに求められる性能などについて報告する。
1 ステンレス鋼管を採用した拡管工法
薄肉管である一般配管用ステンレス鋼管は、その優れた耐食性と軽量化による作業性の向上などから、多くの給水・給湯系統に採用されている。
ステンレス鋼管の接合方法を大別すると、溶接接合、フランジ接合、メカニカル継手接合の3種類となり、小口径(80Su以下)のステンレス鋼管については、そのなかでもメカニカル継手接合が一般的に使用されている。
拡管工法としては、従来からの銅管のフレア工法が代表的なものとして挙げられ、ステンレス鋼管の接合方法分類では、メカニカル継手接合に含まれる。
表-1 メカニカル継手の種類と適用口径6)
(ステンレス協会規格認定品)
| 種類 | 適用口径[Su] |
| フレア式 | 13〜50 |
| 差し込み式 | 13〜25,13〜60 |
| プレス式 | 13〜60,13〜50 |
| グリップ式 | 13〜60 |
| 圧縮式 | 13〜25 |
| カップリング形 | 40〜80 |
| ドレッサ形スナップリング式 | 30〜80 |
| 拡管式 | 13〜60 |
1.1 導入事例
給湯系統に、ステンレス鋼管による拡管工法を採用した建物の概要を以下に示す。
| 1) | 建物用途 | :複合用途の体育施設 |
| 2) | 建物規模 | :地上3階、地下2階、延べ面積13 300m2 |
| 3) | 配管用途 | :給湯配管 |
| 4) | 給湯方式 | :中央循環方式、貯湯槽容量7.5m3×2台+3.0m3×1台 |
| 5) | 口径 | :20〜60A |
| 6) | 配管全長 | :約2 500m |
1.2 拡管工法採用の利点
拡管工法を採用するにあたり、施工計画検討時に取り挙げた利点を以下に示す。
| 1) | 基本的には差し込み式であり、ねじ加工に比べて加工時に発生する廃棄物が少なくなる。 |
| 2) | 現場施工上での工数は、加工も含めたねじ接合より削減することが可能である。 |
| 3) | 火気を使用しないので、安全である。 |
| 4) | 配管接続部を拡管し、袋ナットで締め込むので、メーカー指導の施工方法を守れば、施工後継手部の抜けがない。 |
| 5) | 接続部が袋ナット式のため角度、方向の調整が容易である。 |
| 6) | 拡管機の操作が簡単なため熟練工を要せず、施工品質にばらつきが無くなる。 |
| 7) | プレス式などのように、専用工具を施工場所まで持ち込む必要がなく施工性が良い。 |
1.3 拡管工法採用時の注意点
耐食性に優れているステンレス鋼管は、使用される環境要素によっては特有の劣化(腐食)が生じ、早期にトラブル発生につながることがあるが、ここでは、ステンレス鋼管の拡管工法に限定し、継手接合部における配管の抜け防止などに関する施工上での注意点を示す。
| 1) | メカニカル継手の種類が銅管などに比べて多く、選択に苦慮する。 |
| 2) | 新たな継手を使用する場合には、継手メーカーによる施工方法の教育が必要である。 |
| 3) | ステンレス鋼管の継手挿入時に、斜め方向から差し込むと、継手のシール材であるゴムパッキンに変形やき(亀)裂が生じ、施工後の水圧試験時に漏水を起こすことがあるので、施工時に十分な注意が必要である。 |
| 4) | 給湯系統などの温度変化が発生する配管ラインでは、継手部に熱応力集中による変形発生の危険性があり、継手部の支持方法や直管中での伸縮継手の採用位置などに、十分な検討を要する。 |
| 5) | 配管施工後に継手部に偏心荷重が加わると配管にひずみが生じるので、施工後の配管には作業員が乗らないなどの注意と指示を行わなければならない。 |

図-1 拡管方式による直管の変形状況と継手内部の接続状況の例5),6)
2 プラスチック管を採用したさや管ヘッダ工法
さや管ヘッダ工法とは、パイプシャフトなどに給水や給湯の分配用ヘッダを設け、フレキシブルなパイプを専用のさや管内(樹脂製CD管)に通管し、各種水栓類に接続する配管施工法である。管の材質としては、主にポリブテン管(JIS K 6792,K 6793)または架橋ポリエチレン管(JIS K 6787,K 6788)が使われ、一般住宅や集合住宅内の給水・給湯配管に採用されている。
2.1 さや管ヘッダ工法導入事例
集合住宅の住戸内給水・給湯配管に、さや管ヘッダ工法を採用している建物の概要を以下に示す。
| 1) | 建物用途 | :集合住宅 |
| 2) | 建物規模 | :373戸、延べ面積44 000m2 |
| 3) | 配管用途 | :住戸内給水および給湯配管 |
| 4) | 配管材質 | :ポリブテン管 |
| 5) | 工法 | :各部屋タイプ毎に工場加工にて製品化し、現場内作業にて各所定の場所に配管を固定する。 |
| 6) | 接合方法 | :メカニカル継手 |

写真-1 さや管ヘッダ工法での配管敷設例
2.2 さや管ヘッダ工法採用の利点
住戸内配管を対象として、さや管ヘッダ工法を採用するうえでの利点を以下に示す。
| 1) | 火気を使用しないので、安全である。 |
| 2) | 金属管とは異なり、腐食による赤水や青水などの発生がない。 |
| 3) | 特殊技能を必要とせず、管材が軽量のため施工が容易で、施工技術の平準化が計れる。 |
| 4) | ヘッダから各末端の器具まで配管途中に継手が無いため、隠ぺい部に接合部(漏水発生の危険箇所)がない。 |
| 5) | ヘッダから各水栓までの保有水量が少ないため、給湯の湯待ち時間が少ない。 |
| 6) | ヘッダ方式のため、水栓の同時使用時に水量の変動が少ない。 |
| 7) | さや管内にプラスチック管を配管しているため、システム変更や老朽化に伴う配管の更新が容易である。 |
| 8) | 接合部が少なくなるので、現地での作業時間を短縮できる。 |
2.3 さや管ヘッダ工法採用時の注意点
プラスチック管を扱ううえでの、施工時の注意点を以下に示す。
| 1) | 工場出荷の際に円形(直径約1.5〜2m)にこん(梱)包されているため、加工された配管に"くせ"が残り、現地で配管する際に変形を手直しする必要があるが、無理に手直しを行うと、材料自体に変形に伴う応力が残る危険性がある。 |
| 2) | 使用温度によって最高使用圧力が異なるので、温度と使用圧力の検討が重要となる。 |
| 3) | 給湯系統では、管材料のクリープ特性に注意し、使用限界圧力の検討が必要となる。 |
| 4) | 配管材料がプラスチックであるため、内装工事などの後施工の際に、くぎ(釘)打ちなどによる漏水発生に注意が必要である。 |
| 5) | 材質によっては、直射日光に長期間さらされると、変形および劣化の恐れがあるため、搬入後シートをかけるなどの養生が必要となる。 |
| 6) | 火気を使用しない場所に保管しなければならない。 |
| 7) | 運搬取扱い時に、床に引きずったり、放り投げたりすると、変形や損傷の発生する恐れがあるため、注意が必要となる。 |
| 8) | 配管時は、各メーカーで定められた最小曲げ半径を下回らないように支持を行わなければならない。 |
| 9) | 管切断部や継手への差込長さなどのマーキングに、油性インクを使用してはならない。 |
| 10) | 末端水栓閉鎖時に発生するウォータハンマによる騒音を防止するために、衝撃圧吸収装置の設置や緩閉鎖水栓の採用などを検討しなければならない。 |
| 11) | 防火区画の貫通部には、専用の防火キットを使用するなど区画処置を行う必要がある。 |
3 工法採用による効果
拡管工法を採用したステンレス鋼管による給湯システムでは、竣工後2年を経過しているが、継手部からの漏水などの報告はなく、施工時の作業性も従来のねじ接合に比べて約2割程度改善されており、当初の予想された効果を発揮している。
さや管ヘツダ工法についても、工場加工を併用していることもあり、大幅な作業時間の短縮が図れた。 さらに、施工時に発生する廃棄物については、どちらの工法とも十分な削減効果がみられた。
4 今後の課題
ステンレス鋼管の拡管工法や架橋ポリエチレン管またはポリブテン管を用いたさや管ヘッダ工法は、ほとんどが給水・給湯系統の飲用ラインに用いられ、一般の事務所ビルにとどまらず集合住宅では多くに採用されている。しかし、従来のねじ接合に比べて、拡管工法やさや管ヘッダ工法の接合方法は、基本的には継手に直管を差し込む方法であり、配管に抜けが生じた場合の漏水被害はかなりなものとなることが予想される。施工上での注意事項については、各継手やパイプメーカーより資料が用意されており、実際に使用される現場にて教育も行われている。
問題となるのは、どちらの工法にも共通するが、使用する継手のコストが高い点と、実際に使用される水環境の影響も考慮したうえでの、例えばステンレス鋼管については、メカニカル継手部におけるすきま腐食の問題や、架橋ポリエチレン管、ポリブテン管については、プラスチック管特有の有機化合物の性能劣化(酸化劣化4)など)に関するメカニズムの解明と寿命の判定など、耐久性(安全性)を判断する情報が十分であるとはいえない点である。
おわりに
ステンレス鋼では、より耐食性に優れた次世代の材料(SUS315J1、J2など)が次々に発表されており、今後これらを配管材として用いた場合の継手の開発およびコストダウンが求められる。
プラスチック管の継手には、メカニカル式、熱融着式、電気融着式から、最近では省力化を考慮したワンタッチ式などの継手が実用化され、より多種多様となってきているが、さらに使い勝手が良く安全性の高い製品の開発が望まれ、プラスチック管自体もポリブデン管、架橋ポリエチレン管に変わる、例えば、殺菌作用に優れた配管材料の開発などにも期待が高まっている。
これより、長期にわたった安全性を確保するうえでも、施工に関係する業者(メーカー・施工業ら)以外に各分野の専門家(例えば、化学的劣化や腐食の専門家ら)を交えて、建築設備用機材としての製品開発や施工性も含めた工法改善とコストダウンに関する検討を行い、建物のトータル的な長寿命化に寄与できるように実用化を図る必要がある。
参考文献
| 1) | 松野徹朗・寺前勝:プラスチック配管材の特性と将来性、空気調和・衛生工学、63-1(1989-1) |
| 2) | 下田邦雄:新しい給湯配管システムの考え方、空気調和・衛生工学、64-8(1990-8) |
| 3) | 小川正晃:地球環境時代に向けての給排水衛生システム、空気調和・衛生工学、72-1(1998-1) |
| 4) | 大武義人・古川睦久:材料トラブル調査ファイル(1999)、日刊工業新聞社 |
| 5) | ステンレス協会:新版 建築用ステンレス配管マニュアル(1998) |
| 6) | ステンレス協会:ステンレス配管ガイド(1999) |